はい、毎度おなじみの診断メーカーのキスのお題ったーより、
RTされたら梶野衛青が少しためらった後口付けて「…許してください 」という話を書いてください。
ということで、書いてみました。
目を開けると真っ暗だった。ここはどこだっただろうかと、暗がりをにらみつけていると少しずつ目が慣れてきて、さして広くない部屋の中だとわかる。そこが自分のオフィスではないことに気づいて、梶野衛青は目をしばたたかせた。
いつもならソファの上で制服を着たまま眠るような、非効率的なことはしない。しかし最近はアートルーパーと惟住教授の件の後始末に奔走していて、疲れがたまっていたから、オフィスでも横になってしまうことはときどきあった。そうか、彊志の宿舎を訪ねて、そのまま眠ってしまったんだった、と梶野少佐は思い出す。
時計を確認すると、数時間も寝ていなかったが、それだけでもずいぶん疲れは取れているようで、しかしすっきりしない切迫した感覚がある。トイレを借りに来たという宣言どおり、本当に借りて帰ろうと、梶野は尿意にうながされて起き上がった。暗くてわかりにくいが、宿舎の間取りはどこでも似たようなものだ。適当に当たりをつけて、トイレのドアまで手探りで進んだ。
用を足したあと、洗面所で冷たい水を顔にかける。タオルは置かれていなかったから、ハンカチを出してぬぐった。梶野は、洗面台の鏡に映る顔にちらりと目を走らせて、前髪をかき上げた。
リビングのソファに戻って、暗闇の中でなんとなく座っていた。そう言えば、彊志はどこなのかと首をめぐらせる。梶野が眠り込む前にはそばにいたが、それはそうだ、いつまでも押しかけておいて寝こけたやつのそばになんかついているはずがないと、右手を見つめて思う。
「順当に考えれば、こっちが寝室だな」
と呟いて梶野は、リビングから続く別のドアまで歩いて行った。そっとドアノブをひねると、部屋の中を覗き込む。暗がりにうっすらと、ベッドとその上の盛り上がりが見えた。
「彊志」
と呼びかけて反応がないから、勝手に部屋の中へ入ってしまう。無造作にベッドに近寄ると、横たわる間明の顔を見下ろした。
間明少佐がアートルーパー小隊の件で、引責辞任を迫られたのは事実だったが、それは梶野が積極的に間明彊志に責任を押しつけた、ということではなかった。出世のためにこれまで汚い手を使ったことなどない、と言えば嘘になるが、だからと言って、他人を陥れるほど落ちぶれたつもりもない。
しかし、ERUの石谷少尉の協力があってさえ、今回の件で梶野少佐は、自身の地位の保全をはかるだけで手一杯になってしまった。それだけ大ごとだったのだ。結果として間明少佐を切り捨てるようなことになり、だが、それも、彊志がUNAG内に、間明少佐の味方をしてくれるような人員を、梶野少佐以外に作っていたら、避けられた事態かもしれなかった。仮定などいくら積み重ねてもむなしいだけだが、そう梶野は腹立ち半分に思う。
「だいたい、半分くらいは彊志の責任なのは間違いないんだ」
慧慈の教育担当教官だったのだからと、語気荒く吐き捨てた梶野の言葉に反応したのか、間明が「うぅん…」とうなる。起こしてしまったかなと、慌てて間明の顔を眺めるが、そうでもないらしい。しかし、快い眠りというわけでもないらしく、表情が険しい。
少しためらったあと、梶野は間明の額に唇を落とした。昔、よく姉がしてくれたように。悪い夢を見ないおまじない。
「彊志…許してほしい」
と梶野は、そっとささやいた。自分だけが保身に成功したことを、きみを守れなかったことを許してほしい。しかし、そんなことは間明が起きているときには言えなかった。間明は梶野に自分を守ってくれなどと頼んでいないし、望んでもいないだろう。だから、それは梶野少佐の一方的な思いでしかなかった。
そして、もし言って許されてしまったら、それはそれでいやだなあと梶野は思う。罵られたほうがマシで、でも罵ってきたりもしない。間明が普段どおりに接してくるなら、自分もなんでもないことのようにふるまって、それでいいのだと、梶野は思った。
「さて、もうひと眠りしておくか」
梶野は両手を組んで伸び上がる。いまから出ていく予定の早朝まで、ぐっすりと眠れるかどうかはわからないが、とにかく横になっておいたほうが身体には良いだろう。
「おやすみ、彊志、良い夢を」
言って梶野は、後ろ手で静かにドアを閉めた。
梶野少佐がメイン視点なのは、始めてに近いですかね。これは内容が、コピー本の「手を握る少年たちの話」の続きみたいになっています。て言うか続きです。でもあっちは間明さん視点であんまり関係ないので、無問題です。梶野少佐にお姉さんがいることはデフォです。
そんでこれ、わりと梶野少佐が言い訳がましいですね。会話もなんもないので、全くラブい雰囲気になりませんでした、ただのおやすみのキスでしたね、すみません。でも間明さんがほんとに寝てたかどうかは知りませんです、はい。そして梶野少佐は、あんなこと言っておいて、ぐっすり快眠タイプだと思います。
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