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露草備忘録

〈火星三部作〉は『あなたの魂に安らぎあれ』と『帝王の殻』と『膚の下』(神林長平著、早川書房)で活動中。梶野少佐中心。

傷なお深く

昨日、近所の新古書店にてコミックスの『YUKIKAZE1 戦闘妖精』を、105円で買ってきました。450円の値札シールが貼ってあった頃から、虎視眈々と値崩れするのを待っていた甲斐がありました。
さらに50円の割引券や、Tポイントも使えたのですが、さすがにそれは体裁が悪いので現金払いです。そういうのは、もっと高い本に使わないとね。
フフ、これであとはMBSあたりがなんか勘違いして、OVAの雪風を地上波放映してくれたなら、DVD-Rに録画する用意は出来ています。編集なんて労力がもったいないから、CM入りまくりのまま直焼きしてあげる。
とりあえず資料として手元にないと、ここがダメって言う時に確認できないですし。


雪風OVAの辛口感想はすでに各話書き上げてあるのですが、まだ言い足りてません。これだけはってところは落とさないようにしつつ、あまり細かいところを指摘してやたら長い文になってもしょうがないかと、割愛した部分が多いからです。
ええと、こういうのを表わす言葉がどっかにありましたね。そう「老いの繰り言」。
10年以上も前から神林作品に親しんできた私ですが、〈雪風〉を読んだのはついこの間ですし、積年のファンほどの思い入れがあるわけでもないのに、ここまで負の感情を抱かせるなんて、違う意味ですごいアニメですよ。
原作ファンをターゲットにしているにしては、必要なそこはないとあかんやろなセリフや場面や描写を削りまくり、それでいてオリジナル要素が効果的かといったらそうでもない。小説未読の人向けにしては、映像だけは綺麗で空戦シーンもそれなりということですが、話がさっぱりわからない。
なんでしょう、このバランスの悪さは。


演出もね、1、2巻の目揺れとか顕著ですけど、どうも理解してやっているとはとても思えません。なんとなくこうしたらこう受けとってもらえないかな、みたいな、なんとなく思わせぶりな雰囲気でわかってもらえないかな、みたいな甘えが感じられます。
あの目揺れが、観ていて私はとても気持ち悪かったです。それは、一番大事な場面で使うべき演出効果を、やたらどうでもいい場面でも使いまくっていたからです。
確かに「目は口ほどに物を言い」とは言いますが、登場人物の内面の表出を揺れ目ばっかりに負わせて、視聴者に気持ち悪いと感じさせるなんて、演出がなってないとしか言いようがありません。さすがに3巻からは、目揺れも鳴りをひそめましたけど。
つまり、理論武装が足りていないのです。ここをこうしたら大概の人間は、あれはああかと連想し、だからそう思わせるにはこれが絶対に外せない、という風な。しかも、そういうことは、さり気なくされていなければなりません。


さて、上記以外に、演出がなっていない例として一つあげるとしたら、私は4巻の南雲海軍少将をあげましょう。
日本海軍空母アドミラル56の南雲艦長が記者会見の後、艦長室に引き上げたところで、リン・ジャクスンの同乗許可がどうのこうのという場面だったと思います。もうだいぶ忘れてしまって、だから資料が手元に欲しいのですが、まあそんな感じ。
しかし、これだけははっきりと覚えています。南雲艦長は、細長いやすりで指爪のお手入れをしていました。私はそのシーンを観て、はあ?とすごく引っかかりました。
なぜなら、昨今は男の人も美容に関心が高く、男性エステだのネイルケアだのが特別なことではなくなっていますが、やはりいわゆるおネエ系や乙女系でない男性キャラクターが爪を磨くというのは、奇異にうつります。
これはあくまでも作品内表現のレベルの話であって、現実でそうしていたら奇異と言っているわけではありませんよ。そして、そんなシーン別に気づかんかったしどうでもいいとおっしゃる方もおられるでしょうが、それが演出のさり気なさということなのです。ここの場面は、どうもさり気なさだけは及第点なんです。


したがって、男性キャラが専用のやすりで爪のお手入れ、などという光景は非常に印象的なものです。少なくとも私にとって。
しかし、何故に艦長が爪を磨いているのですか。南雲少将なんて原作でもちょっとしか出てこない、通りすがりの人です。ですが、爪を磨くという行為はそうではありません。都会的で余裕のあるナルシスティックな男性イメージを喚起する行為なのです。
傍証として、TVアニメ「スカルマン」の神代正樹と、同じく「マクロスF」のレオン・三島をあげましょう。この2人も、作品内で指の爪を手入れするシーンがあります。そしてその行為をもって、明らかに彼らの人間性の一端を表現しようとしているのです。頭が良く野心家で、裏で色々画策してそうなキャラ、という。
ひるがえって南雲少将はどうでしょうか。先ほど言ったように、脇役も脇役です。巻をまたいで出てくるわけでもなく、であるならキャラクター表現に凝る必要もない。


どう考えても、モブキャラにすぎない南雲少将に爪を磨かせるくらいなら、ロンバート大佐にさせるべきだったと思います。
南雲艦長には、雑誌のクロスワードパズルでもやっててもらえば良かったんですよ。それで、その雑誌にリン・ジャクスン女史の署名記事が載ってたり、紹介コラムがあったりというところを、さり気なく映せば良かったのです。
演出とは積み重ねです。その時は気づかなかったけれど、後から考えるとあれはこういうことを伝えるための布石だったのか。というものです。
南雲少将が爪の手入れをするシーンの細やかさとさり気なさが、どうしてより重要なロンバート大佐を紹介するシーンに発揮されなかったのでしょう。個々の表現には見るべきところも多いのに、全体として見るとどうしてこんなに演出がちぐはぐになっているのでしょう。
ロンバート大佐のその手のシーンをどこかで挟み込んでいたら、5巻の活躍にぐんと重みがついたのではと惜しまれてなりません。
そう、惜しいのです。もっと雪風OVAは素晴らしいアニメ作品になれたはずであることが。でなければ、こんなに長々と書いたりしません。ああ、愛(ぉ)しい。

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