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露草備忘録

〈火星三部作〉は『あなたの魂に安らぎあれ』と『帝王の殻』と『膚の下』(神林長平著、早川書房)で活動中。梶野少佐中心。

梶野文書
 一般に梶野少佐として知られる人物には、非常に重要な転換が二度存在することがわかっている。『あなたの魂に安らぎあれ』のあとに『帝王の殻』に出たときと、さらにその後『膚の下』に出たときである。厳密に言えば、『膚の下』もSFマガジン連載版と単行本の間に異同があるのだが、ひとまず置く。
 梶野少佐は、梶野衛青が彼のフルネームだが、圧倒的に彼は梶野少佐として有名である。彼の長い人生を考えると彼が少佐であった時期はそう長くはないのであるが、それは火星三部作が彼の少佐時代に集中しているからである。
 そのため、彼の終生については、実はよくわからない空白期が多数存在している。UNAGの記録すら完璧ではない。梶野少佐は月戦争後の生まれであるが、明らかに月戦争以前の出生でなければつじつまの合わない書類上の記載が、梶野少佐のものとして混入している。
 一説によれば、そのおかしな記録は、梶野少佐の父親のものである。
 ともあれ、梶野少佐は月戦争後の混乱した時期の地球に生まれ、しかしある程度裕福な家庭に育ったことが、彼の年上の友人・間明彊志の証言から判明している。
 間明彊志――彼のUNAGの最終階級は少佐であるため、彼もまた間明少佐という呼び方が定着している――は、梶野少佐の親愛の対象であり、良き同僚であり、そしてある意味ではライバルであった。
 晩年の梶野少佐にインタビューを行ったジャーナリストの実加は、短いながらもそのような間明少佐への気持ちを聞き出している。
 間明少佐のほうは、もう少し複雑な心境であったらしい。間明少佐の証言のはしばしには、梶野少佐へ抱く屈託がときに遠回しに、ときに率直ににじんでいる。

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