#23のサイ・玄鬼と梶野少佐の会話は抜けまして、#25 の梶野少佐の説明セリフへ行きます。
「この子はトラプシンを生合成するための、キー・アンドロイドです」梶野少佐が里司の頭に手をおいて言う、「わたしたちにはトラプシンがどういう化学物質なのかよくわかりませんが、知らなくとも、専門家が万一全部死んで知識がいったん失われてもいいように、ある特定のアンドロイドの遺伝子にその記憶を植え、十世代か十一世代目にトラプシン・キーが発現するよう、祖先が考えて造った、この子がそのアンドロイドなのですよ、先生」
(『あな魂』五刷 #25 p.341)
「この子はトラプシンを生合成するための、キー・アンドロイドです」梶野少佐が里司の頭に手をおいて言う、「わたしたちには、トラプシンがどういう化学物質なのかよくわかりません。アンドロイドにも、だれにも知られないように、変身機構のデータについては計画開始時に破棄されました。発現してみないと、分子構造もわからないのです。発現機構はある特定のアンドロイドの遺伝子に組み込まれ、十世代から十二世代目にトラプシン・キーが発現するように計画され、そして、この子が、そのアンドロイドなのです。この子の体内では、いまトラプシンが生合成されている。われわれはそれを抽出し、増幅しなくてはならない。この子の全身の、全細胞を使ってです」
(『あな魂』六刷 #25 p.402)
途中まではだいたい同じですが、六刷の『膚の下』に合わせられた梶野少佐の説明のほうが、「この子の体内では、いまトラプシンが生合成されている。われわれはそれを抽出し、増幅しなくてはならない。この子の全身の、全細胞を使ってです」が追加され、より具体的になっています。
また、五刷の「専門家が万一全部死んで知識がいったん失われてもいいように」が六刷では「アンドロイドにも、だれにも知られないように、変身機構のデータについては計画開始時に破棄され」に、「ある特定のアンドロイドの遺伝子にその記憶を植え」が「発現機構はある特定のアンドロイドの遺伝子に組み込まれ」に、「十世代か十一世代目に」が「十世代から十二世代目に」に、「祖先が考えて造った」が「計画され」と変更されています。
もっとも、「十世代か十一世代目に」が「十世代から十二世代目に」なっているのは、もう少し幅を持たせることにしたということで、『膚の下』に合わせてのことではないのかもしれませんが。そして、梶野少佐のセリフから「先生」がなくなったことと、「専門家が全部死んで」のこの「全部」であって「全員」でない少しざっくばらんな言葉遣いがもろともに削除されたことによって、梶野少佐のセリフの雰囲気がやっぱりより事務的になっていると思います。この直前のシーンで、梶野少佐が六刷以降「いいぞ」(『あな魂』六刷 #25 p.400)と言っているところ、五刷以前は「やったぜ」(『あな魂』五刷 #25 p.339)なんですよね。「やったぜ」のほうが、なんだかフランクな雰囲気があるではありませんか。え、ただの勝手な思い込み? そうかもしれませんね。
あともう少しですよ、11に続く。
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