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新年明けましておめでとうございます。旧年中はお世話になりました。今年もよろしくお願いします。
新年しょっぱなから、『帝王の殻』新旧比較も疲れますので、年始の挨拶と、またしてもあな魂折句長歌&反歌de梶野少佐を置いておきますね。朝まだきなずさいの地にただいまぞ逃れの地より直行(ただい)きに紛うことなき敷島の砂(いさご)かいなず日域に八潮路越えて推参す辣腕ものは銀色の天(あめ)の鎧に歴史を背負い
帰りこしこの地にわれら居てしがな天つみ空に月はなくとも
あな魂帰還シーン。辣腕ものが梶野少佐で、銀色の天の鎧はもちろんパワード・スーツですよ。敷島も日域も日本のことですが、国と言うより土地のような意味で。なずさいは馴染みのやなつかしの、かいなずはかいなでるてことです。
わりと折句の長歌も楽しいのですが、折句じゃない長歌もおいおい作成したいものです。そのときは、書きかえられた梶野少佐をテーマに詠んでると思います。
ま、ではでは。あさまだき
なずさいのちに
ただいまぞ
のがれのちより
ただいきに
まごうことなき
しきしまの
いさごかいなず
にちいきに
やしおじこえて
すいさんす
らつわんものは
ぎんいろの
あめのよろいに
れきしをせおい -
ながながとやってきましたが、もうそんなにありません。
「……わるいことをしましたね。わたしには想像できませんが……親しい人が魔法をかけられたように変身するのは……同情しますよ」
(『あな魂』五刷 #27 p.366)
「……わるいことをしましたね。親しい人が魔法をかけられたように変身するのは……同情しますよ」
(『あな魂』六刷 #27 p.431)ここの梶野少佐のセリフ、五刷の「わたしには想像できませんが……」が消えています。『膚の下』で梶野少佐はバッチリ変身シーンを見ていますので、削除は相当ですね。
あとは、#28と#29で五刷の「UN・ガードマン」と「ガードマン」が六刷では「トルーパー」や「UNトルーパー」に名称変更されています。『膚の下』でアートルーパーという名称を採用したからなのか、現在「ガードマン」と言うと警備員というイメージが強いからなのか。とにかく(3)『膚の下』に合わせた設定変更に伴う、語句及び文章の書きかえ。に当てはまる部分ですね。
さて、11回にもわたって書きかえられた箇所を見てきましたが、今回でおしまいです。年が明ける前に終わってよかったです。総括については、次回の『帝王の殻』の新旧比較が終わってからにしますね。しないかも。ともかく、ウェブページにまとめますので、またそのときにでも。というわけで、『帝王の殻』新旧比較1に続く。
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#23のサイ・玄鬼と梶野少佐の会話は抜けまして、#25 の梶野少佐の説明セリフへ行きます。
「この子はトラプシンを生合成するための、キー・アンドロイドです」梶野少佐が里司の頭に手をおいて言う、「わたしたちにはトラプシンがどういう化学物質なのかよくわかりませんが、知らなくとも、専門家が万一全部死んで知識がいったん失われてもいいように、ある特定のアンドロイドの遺伝子にその記憶を植え、十世代か十一世代目にトラプシン・キーが発現するよう、祖先が考えて造った、この子がそのアンドロイドなのですよ、先生」
(『あな魂』五刷 #25 p.341)「この子はトラプシンを生合成するための、キー・アンドロイドです」梶野少佐が里司の頭に手をおいて言う、「わたしたちには、トラプシンがどういう化学物質なのかよくわかりません。アンドロイドにも、だれにも知られないように、変身機構のデータについては計画開始時に破棄されました。発現してみないと、分子構造もわからないのです。発現機構はある特定のアンドロイドの遺伝子に組み込まれ、十世代から十二世代目にトラプシン・キーが発現するように計画され、そして、この子が、そのアンドロイドなのです。この子の体内では、いまトラプシンが生合成されている。われわれはそれを抽出し、増幅しなくてはならない。この子の全身の、全細胞を使ってです」
(『あな魂』六刷 #25 p.402)途中まではだいたい同じですが、六刷の『膚の下』に合わせられた梶野少佐の説明のほうが、「この子の体内では、いまトラプシンが生合成されている。われわれはそれを抽出し、増幅しなくてはならない。この子の全身の、全細胞を使ってです」が追加され、より具体的になっています。
また、五刷の「専門家が万一全部死んで知識がいったん失われてもいいように」が六刷では「アンドロイドにも、だれにも知られないように、変身機構のデータについては計画開始時に破棄され」に、「ある特定のアンドロイドの遺伝子にその記憶を植え」が「発現機構はある特定のアンドロイドの遺伝子に組み込まれ」に、「十世代か十一世代目に」が「十世代から十二世代目に」に、「祖先が考えて造った」が「計画され」と変更されています。
もっとも、「十世代か十一世代目に」が「十世代から十二世代目に」なっているのは、もう少し幅を持たせることにしたということで、『膚の下』に合わせてのことではないのかもしれませんが。そして、梶野少佐のセリフから「先生」がなくなったことと、「専門家が全部死んで」のこの「全部」であって「全員」でない少しざっくばらんな言葉遣いがもろともに削除されたことによって、梶野少佐のセリフの雰囲気がやっぱりより事務的になっていると思います。この直前のシーンで、梶野少佐が六刷以降「いいぞ」(『あな魂』六刷 #25 p.400)と言っているところ、五刷以前は「やったぜ」(『あな魂』五刷 #25 p.339)なんですよね。「やったぜ」のほうが、なんだかフランクな雰囲気があるではありませんか。え、ただの勝手な思い込み? そうかもしれませんね。あともう少しですよ、11に続く。
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少し長いのですが、ここも一連なのでまとめてやってしまおうと思います。
「ひどかったですよ。借り間の生活ですからね。狭いところに押し込められて、人工冬眠でスペースや水や食糧を節約したり。発狂した者も多いです。それでも火星人たちは、われわれが火星人になることを拒みつづけました。わたしたちの頼みの綱は地球に残していったアンドロイドがプログラムどおり地球を復興してくれること、ただそれだけでした。宇宙艦船の長期生命維持性能は頼りにならず、地球に降りたはいいが食料がないとなると、全滅でしたが……どうにかうまくいきそうです」
「すると、門倉だけじゃないんだな、アンドロイドが造った都市は」
「全地球に分布しています。それらとの交流はなかったのですか」
「あるもんか。アンチたちは人間が地下から出るのを嫌がったからな。例外もあるけど。このアンドロイドの家は、ぼくにとって天国だった。できればアンドロイドたちに恐怖を感じさせることなく、やってくれないか」
「わかりました。そうします」
「よかった。きみたちは破沙の人間を地下から解放してくれるな?」
「もちろんです。力をお借りしたいくらいです」
「買いかぶるなよ。地下に閉じ込められた暮らしだったから、みんな心がすさんでいる」
「それは、わたしたちも同じことです」
「火星暮らしはひどかったのか」
「それはもう。あんなところでよく耐えてきたものだと思います。なにしろひどい世界だった。火星人は、昔は地球人だったというのに、その考え方といったらもう、なんていうか――」
「滅裂だった?」
「そう、そうです。火星は滅裂だった」
(『あな魂』五刷 #23 pp.319-320)「基本的には、凍眠です。しかし、火星の中央統治機構はずっと安定していたわけではなく、間借りの身の上のわれわれは、政変のたびに危機的な状況におかれました。凍眠中の仲間を守るために犠牲になった者も多い。凍眠システムの不調や、火星側が勝手にエネルギーをカットしたりで、死んだ者も少なくない。われわれの頼みの綱は地球で生まれたアンドロイドが計画どおりに地球を復興してくれること、ただそれだけでした。もしうまくいってなければ、全滅でした」
「門倉京だけではないんだな、アンドロイドが造った都市は」
「全世界に分布しています。それらとの交流はなかったのですか」
「あるもんか」と玄鬼。「アンチたちは、人間が地上に出るのをいやがったからな。人間は破沙に閉じ込められて、生ける屍のような暮らしを強いられてきたんだ。しかもアンドロイドの過激派は人間皆殺しを考えている。それに対抗する人間のグループが決起して、あのドンパチになっているんだ」
「もう、大丈夫です。われわれUNAGが、抑えます」
「過激なアンドロイドは、例外的な存在だ。この家のアンドロイドはわたしを受け入れてくれた。ここでの暮らしは天国みたいだった。アンドロイドたちには、恐怖を与えないように、やってくれないか」
「そうします。――地球に残られたあなたがたは、ほんとうに苦労されたのですね」
「きみたちもな」
「われわれの苦労は、この計画の立案時にこそあった」と梶野少佐は、遠い過去に思いを馳せたのだろう、言葉を切り、それから、言った。その苦労は、まだ終わっていないが、とにもかくにも、ここまで来た。われらは、帰ってきた」
(『あな魂』六刷 #23 pp.376-377)ということで、ここも大幅に書きかえられている部分ですね。火星での避難生活の詳細が、五刷と六刷では随分変わっています。もっとも火星暮らしについては、『帝王の殻』との兼ね合いもあるのでしょうが。なにせ、『帝王の殻』であれだけ火星にお世話になっていたことがわかったのに、「火星暮らしはひどかったのか」/「それはもう。あんなところでよく耐えてきたものだと思います。なにしろひどい世界だった。火星人は、昔は地球人だったというのに、その考え方といったらもう、なんていうか――」/「滅裂だった?」/「そう、そうです。火星は滅裂だった」はねえだろというものです。もちろん、『あな魂』が書かれた当時、まだ『帝王の殻』はなかったのですから、多少の齟齬があってもおかしくはありません。
そこはともかく、五刷で梶野少佐が「わたしたちの頼みの綱は地球に残していったアンドロイドがプログラムどおり地球を復興してくれること、ただそれだけでした」と言っているのが、六刷では「われわれの頼みの綱は地球で生まれたアンドロイドが計画どおりに地球を復興してくれること、ただそれだけでした」となっています。「残していった」「プログラムどおり」が、「生まれた」「計画どおり」に変更されているのが、『膚の下』に合わせた改訂なわけですが、五刷以前の『あな魂』のアンドロイドはまったくの人工物のような印象があります。
また、サイ・玄鬼の「門倉だけじゃないんだな」という門倉京のことを門倉と略している用法だったものに、「門倉京だけではないんだな」と京が追加されているのは、『膚の下』に出てくる門倉と混同しないように、ということなのでしょう。そして、「人間が地下から出るのを嫌がった」が「人間が地上に出るのをいやがった」に変化しているのは、五刷以前の『あな魂』では地下に人間が居住していることがUNAG側に明確でなかった、『膚の下』以後では地下に人間が居住しているのは当然だからである、という違いによるものなのでしょう。そこで、サイ・玄鬼による説明の大幅な追加「人間は破沙に閉じ込められて、生ける屍のような暮らしを強いられてきたんだ。しかもアンドロイドの過激派は人間皆殺しを考えている。それに対抗する人間のグループが決起して、あのドンパチになっているんだ」があります。
というわけで、五刷の「地下に閉じ込められた暮らしだったから、みんな心がすさんでいる」と、それに答える梶野少佐「それは、わたしたちも同じことです」が消えてしまいました。梶野少佐が言う「同じこと」とは、地球の避難民の火星暮らしもまた、地下に閉じ込められていたことを指しています。しかしそれは、『帝王の殻』時点で凍眠によるものとされたために、削除されてしまったのでしょう。
さて、六刷の梶野少佐の「「われわれの苦労は、この計画の立案時にこそあった」と梶野少佐は、遠い過去に思いを馳せたのだろう、言葉を切り、それから、言った。「その苦労は、まだ終わっていないが、とにもかくにも、ここまで来た。われらは、帰ってきた」」は、ほぼまるまる『膚の下』に合わせた追加部分です。「遠い過去に思いを馳せ」る梶野少佐! 「われら」て言っちゃう梶野少佐! 失礼しました。「われら」というのは確実に『膚の下』の間明少佐の「われら」に対応しているわけです。もう少しやりたいのですが、この辺で10に続く。
