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途中に『帝王の殻』本文の新旧比較とは、少しずれた話を挟んでしまいましたが、続き行きます。
(ついに地球人がやってくる。攻撃性をむき出しにして。彼らはわたしを見つけ出し徹底的に破壊するだろう。自分を守らねばならない。彼らは機械人の心を理解しない。心があることを認めない。別の生き物だということを。破壊される。生きるためには闘わなくてはならない。戦うのだ)
地球人という存在におびえている自分にアミシャダイは気づく。強い脅威を感じている自分をいぶかしんだ。あたかもいま地球人に銃をつきつけられているような気がする。この情況に強い既視感を覚える。前にも同じようなことがあった気がする。しかしその経験は自分のものではない……
(人間はわれわれを造った。彼らが造ったのはしかしハードウェアと心だけだ。魂はわれわれ自身のものだ。魂とは存在するための、無に対抗する存在駆動プロセッサであり、心は魂の働きの一部を投影するワークエリアにすぎない。われらの魂は人間に創られたものではない。人間は、それを認めようとしない。自動機械としてしか見ようとしない。われらがそうなら、人間もまた同じだ。そんな人間が、創造主のようにふるまう。月はわれらが築いた、われらの世界だ。あけわたすことはできない。共存の方法はあった。しかし人間は――)
(『帝王の殻』単行本初版 #6 pp.271-272)(地球人がやってくる。攻撃性をむき出しにして。かつてのわたしは、そんな地球人の攻撃性から逃れるために、地球を離れ、火星に来たのだ。そして、もう地球のことは忘れようとして、火星で個体を増やしていった。火星生まれの機械人は、かつて地球人と戦った機械人とは違う。だがアミシャダイという名を、地球人は忘れてはいないだろう)
地球人という存在におびえている自分にアミシャダイは気づく。強い脅威を感じている自分をいぶかしんだ。あたかもいま地球人に銃をつきつけられているような気がする。この情況に強い既視感を覚える。前にも同じようなことがあった気がする。しかしその経験は自分のものではない……
(人間はわたしを造った。彼らが造ったのはしかしハードウェアと心だけだ。魂はわたし自身のものだ。魂とは存在するための、無に対抗する存在駆動プロセッサであり、心は魂の働きの一部を投影するワークエリアにすぎない。わたしの魂は人間に創られたものではない。機械人にとって、人間は創造主などではないのだ。わたしはそう主張した。だが、人間は、それを認めようとしなかった。この見解の相違が、月戦争の原因だろう。人間は、脅威だ。しかし、過去になにがあったのかを思い出すことができない……)
(『帝王の殻』JA文庫二刷 #6 pp.296-297)ここはちょうど、前の()と後ろの()の部分が書きかえられているので、真ん中の地の文は変わっていないのですが、一連の流れですので、まとめてやってしまいましょう。
毎度のことですが、『膚の下』で機械人の設定が変更されたことに合わせて、アミシャダイの思考の内容が変更されています。単行本初版では、月人の指導者アミシャダイという執筆当時の設定に沿っていました。「月はわれらが築いた、われらの世界だ。あけわたすことはできない」というところからもわかるように、きっと月から逃れて火星に渡ったアミシャダイだったのでしょう。「ついに地球人がやってくる。攻撃性をむき出しにして。彼らはわたしを見つけ出し徹底的に破壊するだろう」と考えていますね。それが、「地球を離れ、火星に来たのだ。そして、もう地球のことは忘れようとして、火星で個体を増やしていった」と、地球から火星に渡ったことになっています。『膚の下』で書かれている通りです。もっとも、単行本初版の「彼らは機械人の心を理解しない。心があることを認めない。別の生き物だということを」と、「われらの魂は人間に創られたものではない。人間は、それを認めようとしない。自動機械としてしか見ようとしない。われらがそうなら、人間もまた同じだ。そんな人間が、創造主のようにふるまう」というところは、文庫二刷の「機械人にとって、人間は創造主などではないのだ。わたしはそう主張した。だが、人間は、それを認めようとしなかった」と、『膚の下』に合わせて書きかえられてはいるものの、同じことを思っています。ずばり「この見解の相違が、月戦争の原因」ということですね。つまり、このあたりはアミシャダイの考え方として、当初から変わっていない部分なのです。そこで、月戦争の月人側の指導者アミシャダイ、という設定を抜いても成立する、書きかえてうまく成立させたなあと思うところですね。
これはまたまた余談なのですが、上記シーンの直前に、真人が沙山にアミシャダイのことを、「その名は月人の指導者のものだ」「地球と月関係の歴史を学ぶがいい」とレクチャーしていますが、ここは「同名別体かもしれん」と真人が自分で言っているように、読者には確定された情報なのかちょっとわからないようになっています。曖昧です。それが次のアミシャダイの思考シーンで、ああ本当に「月人の指導者」だったんだとわかるのが旧版で、やっぱりそれは本当なのかわからないけれど、つまり真人がはっきりしていない情報を出してまで沙山に対して強い立場を取ろうとしている場面なんだなとなるのが新版の『帝王の殻』なわけで、面白いのは、もともと曖昧な情報のシーンだったので、真人が沙山に対して強い立場を取ろうとして言っている、ということ自体は旧版でも新版でも、読者には同じように受けとれるというところです。
まあそういうことはともかく、6に続く。
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昨日は新旧比較よりも、アドバンスガードadvance guard についていろいろ書いていましたが、一晩寝ながらよく考えていると、ちょっと疑問が出てきましたので、今日は新旧比較じゃなくて、それについてやります。
まず、『あな魂』での「UN・アドバンス・ガード(UNアドバンスガード)」は、これは先発/先遣部隊でいいわけです。実際に『あな魂』#21で「玄鬼は予覚する。地球をめざして押し渡ってくる大艦隊を。やがてその先発隊(先遣隊)を肉眼もとらえることだろう」と、その後数行、それについての描写がありますし。つまり、『あな魂』執筆時点では、アドバンス・ガードが字義通り先発隊であって、だからこそ旧版の『帝王の殻』では、「地球連邦、先端防衛軍、梶野少佐です」と名乗るのであり、「アドバンス・ガード」ではなかったのだと考えられます。
しかし、みなさんもご存知のように、『膚の下』ではアドバンスガードがまるで国連軍(と呼ぶとして)のほとんどであるかのようになっています。あんまり私は軍隊のことに詳しくないので合っているかわかりませんが、そもそも、今後火星に避難する目的のもとにずっと地球で働いているアドバンスガード=先遣部隊とは何ぞやというものです。ということは、『膚の下』以降のUNアドバンスガードとは、先発/先遣部隊の意味ではなく、国連軍という大きな組織を指すことに変更されているわけです。
そこで、『あな魂』新版での梶野少佐の名乗りセリフが、「わたしはUNAG、UNアドバンスガード、一三一方面・先遣部隊の梶野少佐です」になっているのは、念押しではなく、UNアドバンスガードのなかの、「先遣部隊の梶野少佐」と言っていることになります。
さて、それでは火星三部作全体において、アドバンスガードadvance guardが先発/先遣部隊の意味では使われないことになったのだとしたら、いったいアドバンスとは何を意味するのでしょう。この辺はもう雰囲気で、advanceの意味として「前進、進歩、発達」(『ジーニアス英和辞典《改訂版》 2色刷』)等がありますので、そのあたりの前向きな言葉ということでいいんじゃないかと思います。
あと、またまた余談ですが、旧版の『あな魂』からガードマンが消えた件、トルーパーになっている件ですが、辞書引いていて気づきましたが、ガードマンて和製英語であって、英語ではガードマンとは言わないんですね。ガードマンではなくなったのは、そういうことなのかもしれません。
次回はばっちり新旧比較をしますので、5に続く。
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『帝王の殻』は、『あな魂』よりも大幅に書きかえられている箇所が長いので、特にアミシャダイ関連、今日は区切りよく短めにいきます。
「地球連邦、先端防衛軍、梶野少佐です」
(『帝王の殻』単行本初版 #5 p.245)
「UNAG、地球国連アドバンスガード、梶野少佐です」
(『帝王の殻』JA文庫二刷 #5 p.269)
ここは、梶野少佐の肩書きが『膚の下』に合わせて「UNAG、地球国連アドバンスガード」に変更されているわけですが、そもそも『帝王の殻』単行本初版の「地球連邦、先端防衛軍」というのが、『あな魂』での呼称「UN・アドバンス・ガード(UNアドバンスガード)」と齟齬があり、なぜ『帝王の殻』当初は「地球連邦、先端防衛軍」だったのか、ということのほうが興味深いところです。別の言い方してみたとか、なんとなくとか、実際のところはそんなものではないかと思いますが。
なお、新旧比較とはあんまり関係ないですが、アドバンスガードadvance guardというと先発部隊(『ジーニアス英和辞典《改訂版》 2色刷』1997年3月改訂版4版発行、大修館書店)のことですから、梶野少佐が新版の『あな魂』#23で「わたしはUNAG、UNアドバンスガード、一三一方面・先遣部隊の梶野少佐です」と言っているのは、それでですね。「UNAG」から「UNアドバンスガード」から「先遣部隊」って、えらく念押ししますね梶野少佐、と思うくらいです。
あ、ちなみに、先発部隊と先遣部隊の意味はほとんど変わりませんよ。どちらも前もってあらかじめ先に行って下準備しておく係のことです。先発のほうがただ「先に出発すること」(『大辞林』一九九九年三月第八刷、三省堂)だけのところ、先遣のほうは「先に派遣すること」(同)と、より部隊を差し向ける主体のことが意識されますね。
余談ですけど、旧版『あな魂』で「先発」だった箇所は、新版の『あな魂』では「先遣」にされています。#21にありますから、暇でしたら探してみてね。「先発」が「先遣」になったのは、『膚の下』#49で梶野少佐が「おまえたちアートルーパーが先発隊で、行け」と言っているせいかもしれませんよ。そこと区別するためとか。まあわかりませんが。
先発部隊と先遣部隊の説明の出典突っ込まれたら困るわあと思いつつ、5へ続く。
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今回から、本格的に本文の比較を始めます。
「かもしれない」
「なにが」
「記憶さ。わたしは地球で造られたように思う」
「そんな昔に?」
「手や足は交換しているが精神中枢は交換していない。修理をすることはあるけどね。修理しているうちにユニットを丸ごと交換したのと同じになっているかもしれないが、記憶情報は残る」
「ずっと前にも訊いたことがあったな……機械人は死なないのかと」
「精神中枢や記憶ユニットは無限じゃない。容量には限りがある。過去のほうから消えてゆく。デジタルデータをクリアにするのとはちがう。消すというより、過去の記憶は圧縮されて変容していくんだ。そういう部分は自分の記憶としては感じられない。新しい記憶野も過去のそんな部分の影響を受けて変化していく。死につつ、生まれている、と言ってもいい。百年もたてば、わたしは別の性格体になっているだろう。いま現在のわたしを、子供のように感じるようになる。いまでも過去の自分を思い出すと、そうだ。百年も前のことはよく思い出せない。そのときの自分がいまの自分を生んだのだという感覚だ。もっと深過去のことは話に聞いたり学んだりした事柄と混じって、自分自身のことなのかどうかはっきりしない。しかし中枢ユニットは地球で生まれたのは確かだと思う」
「そういう機械人はめずらしいだろう。他の連中は火星生まれだよ」
「まだ若いのさ」
(『帝王の殻』単行本初版 #4 pp.173-174)
「地球の海の記憶は、ある。大昔の記憶だ」
「どういうことだ?」
「アミシャダイという名の機械人は、かつて大洋があったころの地球で造られたんだ」
「機械人は火星で生まれたんじゃないのか。だいたい、アミシャダイという名の機械人は、だなんて、きみはアミシャダイではない、というのか?」
「火星生まれの機械人は、アミシャダイという個性をもった地球生まれの機械人の原初的な記憶を受け継ぎながら、増殖した。だから、機械人はみんな、自分はアミシャダイだ、という意識をもっているんだ。アミシャダイというのは、パーソナルな名前というよりも、機械人のことを指すようなものなんだよ」
「知らなかったな……じゃあ、きみは、だれなんだ」
「オリジナルのアミシャダイだ。もっとも、そういう言い方には意味がないかもしれない。手足も身体も脳の一部も、交換修理しているからね。オリジナルの部分は無きに等しい」
「ずっと前にも訊いたことがあったが……機械人は、死なないのか?」
「ハードウェアには寿命があるし、記憶ユニットの容量にも限りがあるため、記憶は必要度が低いと判断された事項から消去されていく。過去の自分は死んでいく、とたとえられるかもしれない。わたしはオリジナルのアミシャダイである、という記憶はあるのだが、いまの自分とは違うとも感じる。オリジナルのアミシャダイが体験した記憶はいまや薄れていて、よく思い出せないんだ……ようするに、わたしは、過去の自分に生み出された新し個性なんだ。機械人は死につつ、生まれている、と言ってもいい」
(『帝王の殻』JA文庫二刷 #4 pp.190-191)
さっそく少し長いのですが、恒巧のネクタイの色から地球時代のアミシャダイに話をもって行った場面ですね。はい、文庫二刷のほうがよりわかりやすいように、そして『膚の下』に合わせて大幅に書きかえられています。全体的には機械人の記憶について、そんな大昔の自分は自分とは感じられない「死につつ、生まれている、と言ってもいい」という説明は変わらないのですが、単行本初版の「わたしは地球で造られたように思う」「中枢ユニットは地球で生まれたのは確かだと思う」と漠然としていたものが、「かつて大洋があったころの地球で造られたんだ」とはっきりしました。また、文庫二刷の「火星生まれの機械人は、アミシャダイという個性をもった地球生まれの機械人の原初的な記憶を受け継ぎながら、増殖した。だから、…アミシャダイというのは、…機械人のこと…」という箇所は、『膚の下』に出てきたアミシャダイに合わせて追加された部分です。そこで、単行本初版の「そういう機械人はめずらしいだろう。他の連中は火星生まれだよ」/「まだ若いのさ」という先輩ぶったアミシャダイのやりとりが、追加説明にそぐわなくなり、削除されてしまいました。
旧版のアミシャダイはちょっといかしてたのに、残念などと思いながら、4に続く。
