"あな魂新旧比較"カテゴリーの記事一覧
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ついに、本命のところにまでたどりつきました。これから梶野少佐が出てきますよ。
「おまえは」フィルターを通したような声が玄鬼に問いかける。ライトはつけていないが、光電子増強暗視装置があるのだろう、まっすぐに見ている。「何者だ」彼も恐れている。(『あな魂』五刷 #23 p.318)
「おまえは」フィルターを通したような声が玄鬼に問いかける。頭部は密閉型のヘルメットで、顔面は濃く着色されたグラスキャノピに覆われているので、表情は見えない。が、「何者だ」と言うその声からは、警戒と恐れが感じられる。(『あな魂』六刷 #23 p.374)
サイ・玄鬼の視点が強かった五刷に比べると、六刷の描写は、より客観的な視点になっています。
しかしまあ、(3)『膚の下』に合わせた設定変更に伴う、語句及び文章の書きかえ。と言っていた手前、言いにくいのですが、ここあんまり『膚の下』とは関係ないっぽいですね。ここで梶野少佐が着ている銀色のパワード・スーツの描写の変更は、『帝王の殻』での描写との整合性によるものでしょうし、よく考えたら『膚の下』にパワード・スーツ出てないじゃん。「光電子増強暗視装置」が消えたのも、時代の要請だし…。
でも、この23章の梶野少佐の登場以降の書きかえられ率の高さ、一連の流れで扱いたい、というわけで、続きます。次回に。やたら眠いね、7に続く。
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ようやく、(3)『膚の下』に合わせた設定変更に伴う、語句及び文章の書きかえ。までたどりつきました。しかし、まずは語句から行きますね。そして、先に言っておきますが、『膚の下』に合わせて文章を書きかえられた箇所は、#23の梶野少佐が出てくるところからです。
それはともかく、該当箇所です。「おや、おまえのことまで面倒は見られないな。おまえはわたしが造ったのではないからね」(『あな魂』五刷 #18 p.30)
「おや、おまえのことまで面倒は見られないな。おまえはわたしが創ったのではないからね」(『あな魂』六刷 #18 p.36)
ここは、里司が神さまに祈っても、自分がアンチなら神さまにはこの祈りは届かないだろうと、神さまの回答を想像している部分です。「造」が「創」になっています。もちろんどちらの字にも、作るという意味があります。
ここに至る一連のシーンの「造」と「創」の使い分けは、アンドロイドは地上に都市を建築するために創られたんだ。どんな街だろう、門倉京って。(『あな魂』五刷 #18 p.28同六刷 #18 p.33)
と、里司が高揚しながら想像している場面以外は、みな「造」の字が使われているところから考えると、「造」のほうが卑近なものを作る、「創」のほうがより崇高なものを作るというふうに区別されている、ととらえることができます。
しかし、『あな魂』がソフトカバー単行本から文庫になるとき、文庫が版を重ねて五刷に至っても、「おまえはわたしが造ったのではないからね」であり、「創った」ではなかったということは、この箇所は『膚の下』に合わせて変更される必要があったということで、重要になってくるわけです。ですが、このへんも深入りしないで、6に続く。
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次に(2)特に設定の変更を伴わない、文章の書きかえ。ですが、これは多くありません。ぶっちゃけ一箇所です。もちろん(3)が多くて、そのついでに文章の気になるところも手直ししているとすると、区別できないですから全部(3)に入れました。
さて該当箇所ですが、夫がいなくなってこんな気分になるのだから、誠元の心にはたぶん、ずっと前から、わたしのことなんか消えてしまっていたにちがいない。(『あな魂』五刷 #18 p.247)
身近にいるべき夫がいないこの寂しさを、きっと誠元も感じていたのだろう。誠元の心にはたぶん、ずっと前から、妻であるわたしはいなくなっていたのだろう。(『あな魂』六刷 #18 p.289)
という感じで、微妙な違いですね。ですが五刷の「こんな気分」を、六刷では「身近にいるべき夫がいないこの寂しさ」と具体的に記述。そして五刷の「誠元の心には…にちがいない」が少し文法的に破調なのを、六刷では「誠元の心には…のだろう」に修正、それに伴って五刷の文章の強い断定が弱められています。また、六刷ではわたしの前に「妻である」を追加して、五刷よりも妻という立場、こんなふたりが夫婦である意味とはなんぞやを強調していますね。
しかしこのへんは深入りせずに、5に続く。
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さて、新旧『あな魂』の違い、(1)文章の則などにかかわる表記の統一や語句の修正。についてですが。
これはだいたい、漢字を同じような意味の別の漢字に変更(例:器→機、登り→上り、等)、漢字表記を平仮名に改めている(例:その上→そのうえ、先程→先ほど、等)、また逆に平仮名表記を漢字にする(例:つかえる→使える、ください→下さい、等)、送り仮名の送り位置の変更(例:閉っていた→閉まっていた、浮び→浮かび、等)、読点や中黒点の追加あるいは省略(例:地下空洞破沙→地下空洞、破沙、UN・アドバンス・ガード→UNアドバンスガード、等)、というふうに、けっこうありますが、この辺はあんまり大事じゃない(大事なところは(3)のときに)ので、次に(2)に行きますね。もう眠いから、4に続く。